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管理人:黒猫のローラン

度し難いエゴの僕の部屋

やぁ友よ!幸薄き隣人達よ、我らはこの世界という鎖から解き放たれた。
来る者は拒まないが、去る者は決して赦さない。仮初めの終焉…楽園パレードへようこそ!

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書き物系のリンクは作っていません。最後まで書けるものがあればリンクを作ります。でも終わらないのがマゾスティックに好きです。終わらない言葉の波紋、最後まで君に…





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Sound Horizon 珊瑚の城

2008/08/28 23:31
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珊瑚の城

―彼らは待ち続ける 輪廻が砂時計を反転させる瞬間を―

蒼く冷たい海の中 泡沫(うたかた)の夢を見る
忘れ去られた追想は 揺れながら錆びてゆく

珊瑚が眠る樹海へと 楽園は堕とされた
扉を護る番人は 石のように動かない

会いたくて…愛しい人の名を
叫んでも 声は届かない
閉ざされた…城は死者の檻
タナトスは 彼を逃がさない…

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ココロ×イト(1)

2008/08/28 22:43
 糸を通された針が落ちる。
 不器用な私はいつもこんな感じだ。肝心な所で変な失敗をする。
 天秤に心を乗せて図れば、いつも分が悪い方に乗ってしまうのだ。
 ベッドの上に紺色の作業着を放り投げる。
 その作業衣は油や汚れで多少薄汚くなっていた。
 サイズは私が着るとだぶだぶで、ズボンなど足首がもう一つ分埋まるほどだ。
 洗濯物を取り込んでから、作業衣の綻びに気がついて、持っていた裁縫道具から針と糸を取り出した。
 普段、全く使うことなどない針と糸、この部屋の住人はそんなものすら置いていなかった。
 直そうとした上着の袖、破れているのを直そうとして、糸を通したばかりの針を落としてしまった。ベッドの下に潜り込んで落ちた針を探す。そこは暗くて埃だらけだった。
 左手に何か触れた。
 「何これ?」
 一旦、ベッドから這いずり出て手元の本を見る。
 セクシーな本だった……
 苛立つ。
 つまらない、本当につまらないものを発見した。
 中身など見る必要もない。
 手近なゴミ箱に投げつけると、中に織り込んで挟まっていたピンナップと切れ端が飛び散って、本はゴミ箱に当たって中の物が散乱する。
 「…最悪だ」
 ぶつぶつ呟いて、本来の目的である針を探すためにベッドの下に腕をさ迷わせる。
 チクリと、何かが指に噛み付いた。
 「ツウ!」
 指先の鋭い痛み、鋭い針の先端が人差し指に突き刺さっていた。
 針が音もなく落ちる。
 血が出ていた。
 深く刺してしまったためか、見る見るうちに指の上に血の粒が点となって、やがて溢れて零れ落ちた。
 その赤を見た瞬間、心が弾けた。
 理解できるのは、もう何も考えられないこと。
 体が動かないこと。
 声も出ないこと。
 心臓がどくどくと音を立てていること。
 指から血が出続けている。
 力を込めて手を握り締めていること。体内の血を全て絞り出すかのように。
 口の中が乾く。
 気がつくと私はフローリングの床の上に倒れていた。
『助けて』
 誰か助けて、そんな声が聞こえる。
 私の声? 違う。まただ、また… あの声が訴える。
 すっかり血の気が失せた体は冷え切っていて、体を動かすこともままならない。
 そして、その声はまた言った。
『助けて』
 私は誰も助けられない。
「もう、やめて…」
 意識が途絶えそうになりながら、金属の扉の鍵を開く音が聞こえた。
 戸惑う気配と呼びかける声、よく知った馴染み深い声が心配そうにすぐ近くで聞こえる。
 亮(まこと)の声だった。
「大丈夫か?」
 ぶ厚い手が頬に触れて、やっと私は現実の感覚を取り戻した。 
「全然… 平気じゃない… 気持ち悪い」
 ただ今の気分を伝えた。
 亮は部屋を見て何か弁解の言葉を言おうとしている。
 違う、違う。気持ち悪いのは血を見たから。
 そんな否定の言葉を吐くよりも、もう少しこの暖かい腕に触れていることにした。
「いや、その、これはだな。高橋さんがいい本だからって」
「そうか、じゃあ今すぐ捨ててきなさい」
 やっと、落ち着いて言えた。
 高橋さんというのは、彼の仕事場での上司だった。
「借り物だから無理す」
「血がいっぱい出た」
「え」
 と、亮が驚く。
 その目線の前にもう血の止まった指を突き出した。
 握り締めた手に乾いた血が張り付いて、指がへばりついて、力が出ない手では開くのも難しかった。
「何やってんだよ。お前」
「ただの貧血だよ」
「本くらいで…」 
 だから、本じゃないよ。本で出血しないだろうと、説明も面倒くさい。
「もう帰る」
 いつまでも冷たい床に座り込んでいたくないから立ち上がる。
 足の感覚がまだ戻っていない。ふらりと足が軸をずらして、体の重心がぶれる。
 亮が慌てて私の体を受け止める。
「もう少し休んで行けよ。風呂入れるからそこに座っていろ!」
 ベッドに私を座らせると、亮は自分が真っ先に浴びたいであろうシャワーの栓を捻って、何日か使っていない湯船を軽く洗い流すと、熱い湯をバスタブに張り始めた。
「今日は泊まっていくか?」
 尻上がりに軽い口調で亮がふざけて言う。
「ご飯は食べていく」
「作る?」
「食べに行こう」
「給料日にいきなりたかりか…」
 そう、今日は亮の初給料日だった。
 湯張りの途中でバスルームから亮が出てくる。
「ちと、金降ろしてくる。シャワー見てろ」
 そう言うと、返事をする前に扉を開いて出て行く。
 すぐに私は立ち上がって、バスルームを覗く。
 手に触れたシャワーの湯は少し熱すぎる。水を加えて程よい温度に調節する。
 そして亮が帰るのを待っていた。
 最初に風呂に入れてあげよう。熱くないから文句を言うかもしれない。
 ずっと、不良みたいな暮らしをしていた亮が働き始めたのは今年の春になってからだった。
 もう、窓から見える景色は夜の色に染まっていた。
 ビルが隣に立っていて、マンションの壁との間はすごく狭い。人が一人入れる程度の隙間。そこから月が出ているのが見えた。 
 正常な温度を取り戻した身体に感じるいつもの時間、平和な空間、ワンルームの部屋。
 何もなかった私に今、在るもの、これが全て? そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。でも、今の居場所はここだった。
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約束の丘

2008/08/28 19:36
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約束の丘

鬱蒼と生い茂る ウェルケンラートの森
その向うに約束の丘がある

瞬いた刹那 その闇の中に灼きつく風景
彼は生涯忘れえぬ夕陽を見た…

「何があろうと僕は必ず…君の元へ帰って来るよ…」
「…ええ信じてるわ…愛してるもの…忘れないでAlbers」

{その日の空の色 哀しい程に朱く
 離れても二人を 結びつける朱石}
{若い二人は甘い永遠を丘に誓った…
  の首飾りを架け誓った…}

時が語り手を欠いたとしても 物語は紡がれ続けるだろう
白鴉が羽ばたいて往く途… 斜陽の空に何を求めて…

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魔女

2008/08/27 22:37
 喫茶店の奥の席に腰を下ろしてから五分、男は温くなりかけたコーヒーカップに無駄に砂糖を落として掻き混ぜた。ぐるぐるぐるぐると、カップの中の液体が混ざり合って、その匂いが鼻を刺激する。ただの茶色いコーヒー色の砂糖水が出来上がる。
「それを飲むの?」
 と、女の声が問いかけた。目の前に一人の女が立っていた。
「トオ… いや燈子か」
 手元のコーヒーを儀礼的に口に運んで一口飲む。すぐにカップをコースターの上に戻した。もう飲む気も起こらない。
「口紅…」
 女は薄っすらと化粧をしていた。
「うん」
 と、その女、燈子は頷いて正面の席に座った。
 流行から疎い燈子の服装はまあ悪くなかった。
「昔、海に行ったときそれ着てたな」
「ええ。よく覚えてたね」 
 目の前にいるのは学生時代からまったく変わらない同級生の姿。
 そして今も続く友人同士である。
「修吾君、今、一瞬だけ、私を姉さんと間違えた」 
「いや… ちょろっとな」
 と、頬をかいて余所見をする振りをする。
 中谷周吾は燈子の姉と婚約していた。その姉が病に倒れてから、婚約の話はほぼ立ち消えのようになっていた。
 そうなったのは中谷の社会的立ち居地によるもので、周吾は決して諦めていなかった。
「燈子… 永久に会って行かないのか?」
「もう会ってきた。あの人ね、私が誰だかすらもう覚えていないの。彼女はもうあちら側の世界に魂を引き寄せられて、精霊となった」
 俄かには信じられない話、だが、《魔女》である燈子の言葉は、ある意味で的を得ているのかもしれない。
 そう言った燈子は俯いて、肩を震わせていた。
「ごめん、口紅は取ってくる。変なこと思い出させてすまない」
 そもそも、周吾と燈子が待ち合わせをしたのは、約束を果たすためだった。
 トイレから戻った燈子に儀礼的に周吾はその書類を差し出していた。
「お前の望むものだ。もう一度考えろ。お前はあいつを捨ててまで、自分の目標を達しようとしている。そんなの間違っている。残された人生をあいつとゆっくり過ぎしていたいんじゃなかったのか」
「そうよ… 幸せになりたいの私。あの人がいて、私はあの家に戻って、只今って言うと、可愛い子供たちが出迎えてくれるの。週末にはみんなでゲームをして遊ぶの。あの人が作ったケーキをみんなで食べて、幸せな毎日を手に入れる。それが、望みでは何がいけないの? 神様は何でも奪うわ。だからそれ以上の幸せを手に入れて見せる。永久だって幸せに笑う権利があるの」
 『魔法大学入試試験申し込み表』の入った封筒を抱えて彼女は立ち去った。
 明らかな時空間交渉の出現により、《魔女》と呼ばれた女は人の理の通じない世界へと迷い込んでいた。
 一人残された周吾は溜息をついた。
「嘘つきばかりだ」

「私は魔法使いになるの」 
 彼女と出会って三年、一緒に暮らし始めて半年経った頃、僕らは結婚した。
 友人以外は呼ばない拙い結婚式でも、燈子は微笑んで、嬉しそうに僕にキスをしてくれた。
 それからしばらくして、そのしばらくという一年は、僕らには途方もなく長い一年だった。
「魔法使いになる」という妻の突拍子も無い発言は僕を混乱させた。
 それまで、そんな存在には何の関わりもなかったからだ。
 でも、突然言い出して、風のように彼女は行動し、そしていなくなってしまった。

 僕は魔法なんて信じてはいなかった。
 でも、この世界には魔法が存在する…
 それは、歴史が確実に教えてくれる。
 平和な理の世界に突如割り込んできた魔法…
 誰かが、向こう側の世界からやって来て、そいつらが魔法使いだと名乗ったのだ。
 これは僕が生まれる前の出来事。 
 知らぬ法則に絡めとられる世界、崩れ去る常識。
 僕はそんな時代に思春期を過ごした最初の世代だった。

 思い起こせば、彼女には不思議な所があった。
 生けた花がいつまでも若々しく咲き誇り、僕は彼女がいなくなるまでそれを造花だと思い込んでいたのだ。 
 誰かが彼女を魔女だと言った。
 それもくだらないいたずらの言葉に過ぎないと思っていた。
 そう言われたときの彼女の顔を思い出す。
 
 妻の痕跡を辿ると、彼女は魔法学校志願入学手続きにサインし、入学願書を受け取ると、しばらく友人の所に行くといって家を出た。
 その時に夫である僕にも内緒で魔術試験を受けて、合格してしまったのである。
 全てが後手後手で、僕が気がついたときには全ての段取りは終わっていたのだ。

 僕の妻がおかしな事を始めるのはいつもの事であるが、さすがに妻の気まぐれとも言えない行動を許して上げる事ができなかった。
 彼女は僕を捨てようとしているのだ。
 僕らは喧嘩をした。
 今まででずっと長い喧嘩だった。
 妻の心は痛いほど伝わって来た。
 叶う事なら、僕もそれを望む。
 しかし、それによって、僕たちが離れ離れになる事が耐え切れ無かった。

 僕ら夫婦には子どもがいなかった。
 たった二人で東京郊外の一軒家に暮らしている。
 ある時、病院の産婦人科で、妻は子どもが作れない体である事が判った。
 僕らは子どもが欲しかった。
 伸びやかに、健やかに育つ子どもの姿を見るのは、何よりも嬉しい。
 家族に捨てられた過去を持つ僕は、家族というものがよくわからない。
 それでも、長い間、僕たちは愛情を確かめ合い、新しい生活について議論をしたものだった。
 その何もかもが一瞬の内に失われたのだ。
 残酷な仕打ちだ。
 
 その時、妻は泣いた。
 泣いて、泣いて、泣きつくした。
 僕にはどうする事もできなかった。
 ただ側にいる事だけしかできなかった。
 全ての涙を流しつくした後に彼女は言った。

「魔法使いになれば、子どもが持てるわ」

 僕は耳を疑った。
 妻は気が狂ってしまったのだろうか。
 僕は不安になった。
 その後の数日、僕と妻は直接顔を合わせなかった。
 合わせられなかったのだ。
 そこにいても心で意識的に避けたのだ。
 話せば、何か、決定的な事が起こってしまいそうな気がしていた。

 そしてある日、帰ってきたら机の上に一通の置手紙をして妻は行ってしまった。
 本当に人の手が届かない場所へ。

 魔法界高等大学魔法学校。
 入学案内手続きのコピー。
 合格の印が押された用紙を見て、僕は気が狂いそうになった。

 なぜ彼女は消えた? 
 僕のせい?
 誰のせい?
 妻のせい?

 自分を責め続けても、答えは見つからなかった。
 彼女がいない家の中を歩き探し続ける。
 酒を飲んで、町の中を放浪しながら探し続ける。

 仕事すら手につかなくなった。
 僕は妻がよく座っていた椅子に腰を下ろして、窓の外を眺める事が多くなっていた。
 その椅子は洒落たもので、僕が結婚後に妻に買い与えた唯一のものだった。
 そんなある日、高校の時の親友、中谷が尋ねてきた。
 僕は相当参っているように見えたんだろう。
 中谷は僕を飲みに誘った。
 近頃、外出しなくなった僕を見かねてか、中谷は何度も僕を誘った。
 馴染みになった居酒屋「ちらりん」の亭主が温かい笑顔で迎える。
 その暖かさも僕の胸には遠い。

「なぁ、知ってるか。魔法使いになると、魔法使い養育機関から才能のある子供を自分の養子にする事ができるって」

 中谷はおでんに噛み付きながら言った。
 そんな話は初耳である。
 政府機関でも魔法省と呼ばれる組織は秘密だらけで、一般人が魔法使いの知識どころか、条例さえ知る事ができないのだ。

「なに、俺の従兄弟があっち方面でな。ちらちらとそういう話を聞く事があるのさ。お前の奥さんが戻ってくる時は、晴れて魔法使いってことだ。お前にも相談しなかったのもよほど思い詰めてたんだろうな。心配だろうけど、こっちとあっち側はちゃんと繋がっている」

 そう言って、中谷は僕の方を軽く度ついた。
 少しだけ気が晴れた。
 中谷は手元の酒をぐいっと飲み干すと熱燗から再び注ぐ。
 その頃には僕も大体の事情はわかってきた。
 魔法学校に入ると、表の、つまり一般の社会とは隔離された世界に行ってしまう。
 そして簡単には戻ってこれない事。
 手紙の一つすらやり取りを許されない事。
 
 そして僕は待った。
 あれから、五年の歳月が流れていた。
 僕はもう妻が戻ってこないのではと思い始めていた。
 もしかすると最初から存在しなかったのか?
 いいや彼女はいたのだ。
 僕は僕の思い出を殺しかけていた。
 始めて出会った日、二人で写った写真を見て僕は泣いた。
 わかっていても、彼女を求める心はずたずたに傷ついていて、今にも切れてしまいそうなか細い糸のようだった。 
 泣きつかれて、雨の降る窓辺に座り、毛布を引き寄せて、またしばらくの間眠った。

 光に包まれて、音もなく玄関の扉が開く。
 家の中に明かりが灯る。
 光が侵入者のシルエットを映し出す。
 そこにいるのは、三角のとんがり帽子に白い法衣、白魔術師としての証を示す六角形のペンダント。
 彼女は久しぶりの我が家に安心すると、床に毛布一枚で転がって寝る青年に近づいた。
気がつくと、僕は真っ白な天使の姿をした彼女の腕の中にいた。
「僕は死んでしまったのか。君が目の前にいるなんて」
「ただいま」
 彼女はたった一言そういった。
 僕等は抱き合った。
 妻は、彼女はここいて、止まった時間が動き始めた。
 分かれていた半身は帰って来たのだ。
 互いに十年分の涙を流した。 
「私はここにいるよ。もう離れない」
 彼女は魔女の血を引いていた。
 魔女は長い事、人間の世界と魔法の世界の間で暮らしてきたのだ。
 魔女は魔法界では不吉な存在なのだという。
 辛い事は沢山あったのだろう。
 でも、彼女は戻ってきた。
 一人の魔術師となって。
 そして、一人の傷ついた心の少女と僕らは出会った。
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試行錯誤の部屋B

2008/08/26 23:21
 お金の僕である女編集長。
 仕事だけが生きがいだったが、突然振って沸いた婚約者、その男は財閥の坊やだった。
 というのが前回の設定だったな、うん。
 追加設定をいくつか。

1.名前
 三枝鶫が人前でこの名前を使うことは滅多にない。
 偽名の美津枝つぐみを使用する。
 出雲酪志は業界関係者でも一部の人間しかその正体を知らない。

 本名:三枝鶫(さえぐさつぐみ)
 秘書:美津枝つぐみ(みつえだつぐみ)=三枝鶫本人
 編集長名:出雲酪志(いずもらくし)=デモクラシーから

2.雑誌名
 浪漫倶楽部。
 何でもありの雑多な雑誌社で、編集社名も浪漫倶楽部である。
 編集長と秘書、数人のゴーストライターを抱え、いつでも刷新、ネタがなければ休刊といういい加減な経営をしている。
 色物的な内容が多いことから、業界人の間では三流と蔑まされている。
 こんな所に入ってくる記者はかなり身を崩していたり、何らかの事情を抱えている者ばかりであるから、編集長の正体に関してはあまり注意を払われていない。

3.様子
 着物はまったく着ないが、西洋かぶれというわけでもない。
 シンプルなシャツにズボンという比較的、男性スタイルで取材に行く。
 あまり動かなくてよい時はスカートも着用するが、野暮ったい足元まであるようなスカートは決して履かない。
 膝くらいまで出すときはストッキングを愛用している。
 冷え性であることかららしい。
 赤い蝶ネクタイに白いブラウス、スカート、もしくはズボンというのが基本スタイル。
 家で過ごす場合、単の和服を着用する。
 寒い時、家の中で過ごす鶫を見れば、洋服の上から和服を羽織った変な格好の娘が見れる。
 
4.顔
 女らしさよりも、生き残ることに必死であったため普段から化粧はあまりしない。
 髪も面倒とばかりに耳元辺りで切り揃えている。
 美少女と言うには目がお金と取材に傾倒しており、実際には目が鋭いという形容が当てはまる。
 16の時に雑誌編集の仕事に入る。
 文章を書くのが得意であったため、おじの代わりに代筆することが専門になった。
 取材して書きとめたメモから内容を把握し、記事を書き上げる。
 まるで現地で見てきたかのように文章を纏め上げる才能から、おじは取材に専念するようになる。
 記者、出雲酪志はこの後、単独で記事を書くようになる。
 それから数年、おじは無くなり、鶫は小さな雑誌社を継ぐ。
 殆ど何もない所からのスタート。
 数年で浪漫倶楽部は業界切っての色物雑誌社へと成長を遂げていた。
 
5.支える人
 元公家である三枝の家にも奉公人はいる。
 没落してから、使用人の多くは辞めているし、三枝の家にはもう何もない。
 ただ、一人の老女が給金は貰わず、たった一人きりになってしまった三枝家の令嬢を世話している。
 他にも何人か、そういった支援をしているのだが、鶫はそういうことをまったく把握していない。
 すべて老女が管理をしているのだ。
 名前は科(しな)、六十くらいだろうか。
 三枝家の落ちた天秤を浮かび上がらせようと、工作したのが科の仕業であることに鶫は気がつかない。
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Sound Horizon 銀色の馬車

2008/08/26 22:14
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銀色の馬車

―衝動という名の忌避すべき悪夢 壊れたマリオネットは誰?―

救いなき世界に生まれ堕ちる者達
その身に絡み付くのは…死の鎖
見えない鎖を繰り寄せ それはやって来る
タナトスの使者は 決して逃さない

突然の衝動に突き動かされるように
駈け出した母子 追いかけるは銀色の馬車
吹雪の夜の情景 白夜に彩られた悲しい物語…

吹雪の雪原を 駈けて行く女(ひと)
幼子を抱きかかえて
銀色の馬車は 疾風(はやて)のように
逃げる影を追いかける

黒衣の男は凍てついた 蒼く燃える手を振りかざす
眩い光に包まれて 目覚めた時には遅すぎた

女が雪原に埋めたのは…鳴呼
愛しい我が子の亡骸よ…

Never cries, Never moves, Baby is under the snow.
Never smiles, Never grows, Sad song of fate.

Never cries, Never moves, Baby is under the snow.
Never smiles, Never grows, Sad song of fate.

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魔女

2008/08/26 17:45
 月が出ていた。
 幾重にも、何重にも見える月の残影。
 空の境界線の果てに地平を分ける雲、明るいとも暗いとも判別しかねる不可思議な光景を一人の女が見据えていた。
 東から西へ光線が徐々に空に広がり、闇に包まれた大地の姿を照らし出していく。
 月は消えていく。そして、西に光線が消えていくと、再び暗くなり始めた空に月が現れた。
 月の残像が先ほどよりも少し丸みを帯びて空に円を描く。
「満月まであと三日分ほどの時間で岸に着きやす」
 と、船頭の男が告げた。
 船に乗ってからずっと無口だった船頭の顔は三角の傘に覆われていて表情が読み取れない。
 唯一、喋ると口の輪郭が動いて、女は船頭という存在がいたことを思い出していた。
「空が…」
 女が一言そう言って止める。
 船頭の男は傘を深く下ろして押し黙ったまま、静かに、そして力強く櫂を漕いだ。
「こんなにも空は綺麗だったのね」
 まるで初めて空を見たというように女は呟いた。その答えはない。男は黙ったまま船を水の上を走らせた。
 やがて、船頭が言ったように三度目の月が空に昇り、明ける空が近づいて来た頃、船は生い茂った水草の横をスイーっと通り過ぎて、音もなく岸辺に辿り着いた。 
 船が水面を揺らして、波紋が広がっていく。
 船頭は櫂を空で切って、脇に抱えて佇んで、今までと同じように押し黙る。
 女は戸惑う。
 そう、降りるためには水の中に入らなくてはいけない。
 水面は深くはなかった。
 草の生えている位置から計算しても、身の丈が沈むほどの深さはなかった。
 少し濁った土色の水面。これは穢れではない。
「禊ね。水の中に入るのは?」
 その問いは沈黙で返される。それが無視ではないことを女は理解していた。
 この水の民の船頭は律儀にも客が最後まで岸に辿り着くまで見守るつもりらしい。
 陸から持ち込んだ穢れを、船から降りた客は、陸に上がる前にその穢れをそそぎ落とさねばならない。
 だから、船着場などは存在しない。
 腿の辺りまで水に浸かり、一歩ずつ足を前に進める。
 足の裏に軽く傾斜した人工的な石の感覚を感じる。
 ここが唯一、あの世とこの世の境を示す境界線なのだ。
 女が振り返ると、船は静かに岸辺を離れていた。ゆっくりと確実に霧の中に消えていった。
 そして、女はわずかな時間を旅してきたこの河を見やる。
 何千年もの間、人と魔の世界を隔ててきたこの悠久の流れは、深くどこまでも続いているようだった。
 その霧に煙る水面から空を見上げると、もう空は朝の日が昇りかけていた。すでに空は不可思議な光景を映し出していない。
 そこにあるのはただの空だった。
「ここの空も向こうと変わらないのね…」
 女は呟く。

 その時、大地を踏みしめて、誰かが土手の向こう側からやって来た。
 金属のようでどこか違う響き、すぐにその正体はわかった。
 川を隔てる土手の向こう側から幾人かの男達が現れる。
 それぞれが槍を持ち、石のように滑らかな線を描く鎧を身に着けている。まるで、それが体の一部であるかのように。
 防人《さきもり》… 兵士。
 軍人という形容をするには、目の前に現れた集団は華麗で、揃って持っている短槍には赤い色の布が結び付けられている。
 一人の兵が槍で合図すると、統制された動きで横一列に並んだ。
 隊長と思わしき兵が岸辺に立つ女の所まで歩いてくる。
 女はただ隊長の顔を見て、すぐ近くに来るのを許した。
 そう、許したのだ。
 そう思わせるほど、その女は堂々としていた。
 隊長は役目を思い出して、擦れそうになった声に勇気を込めて問いかけた。
「貴女が《森を護る光の灯火》か?」
「そうです」
 兵士の長であろう男の問いかけに女は肯定して答える。
「長い名前ね」
「御身の国の名は一つに多くの意味を持たせる。我らが読み親しい呼び方をすればこうなります。お客人がこうしてこの地に来るのは数年ぶりであります。我らの主君から貴君を歓待せよと仰せつかっております」
 隊長ははきはきと答えた。
 わずかな緊張は声を出すことで振り払う。
 その声には兵士としての誇りが満ち満ちていた。
 女は隊長を観察していた。
 丁重な物言いに発音からして、男は卑しい出ではなかった。
 辺境の兵には荒くれ者が多いというが、目の前の隊長には育ちのよさが見えた。
「あなたのお名前は?」
 女の問いかけに、名前を尋ねられるとは思っていなかったのだろうが、すぐに答えた。
「ラ・イッツェと、ここでは私はそう呼ばれています」
「本当はもっと長いのね?」
「真名は先祖の廟に置いて参りましたから」
「私は… 《魔女》よ」
「存じております」
「この国では《魔女》は歓迎されないと聞いています。あなた達の主君に迷惑になるのでは?」
「客人、主はきっとこう答えられるでしょう。我らの領内に異邦人が来れば持て成すのが礼儀であると、たとえ《魔女》であれ、我らは客人を迎えるのに餓えているのだと」
「ありがとう」
 と、そう女は微笑んで頭を下げた。
 若い隊長は軽くはにかんで向きを変えると女を先導して歩き始める。
 並んでいた兵士達が道を開けて、隊長と女が歩いた道の後ろを隊列を組んだまま続いてくる。
 近くで見ると一様に緊張していた様子から安堵の表情を浮かべる者もいるが、その行進に緩みはなかった。
 《最果ての岸辺》と呼ばれる辺境の地で異邦人を出迎えたのは、彼らの仕事の範囲に含まれるからに過ぎなかった。
 この国では禁忌《タブー》とされる《魔女》を客人にするという酔狂な領主、ゲルトルード・モルデンラーゲ公主が女をその城館に招きいれた。
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思考錯誤の部屋A

2008/08/26 00:35
1.
翡翠は双子の兄姉。
翡は男の子。
翠は女の子。
2.
双子の母親は子供を守るために権力を求めた。
権勢欲の強い隣国の王と手を結んで、王族一門を国から追放する。
親族を追放した売国の王妃が翡翠の母君である。
王妃は隣国の王と密通し、幾つもの企みを国にばら撒いた。
3.
双子は王太子として、翡翠宮の奥深くで、聖なるものとして鎮守される。
表に出ることを禁じる儀式によって、一度も宮廷から出ることはないのだ。
そして翡翠宮は国を支える象徴として、民衆にアピールされる。
正しき血筋はここに在りと、翡翠宮はいつの間にか、祭祀が執り行われる神殿となった。
双子の神子こそが翡翠、民衆を欺くための唄を歌う。
翡翠宮は神聖不可侵な神の宮殿となったのである。
4.
双子は同い年、顔も似ている。
そしてたまに入れ替わる。
翠が男の子の格好をして、翡のように振舞う。
翡が恥ずかしげに女の艶やかな服を着て、恥じらう。
宮廷内の容易いお遊び。
翡が翠のように振舞うにはどうしたらよいのかがわからない。
仮面でもつけているかのような、どこか硬いお姫様を翡が演じている。
翠は翡の格好をしていても堂々としている。
まるで男の子のように振舞える。
5.
翡殿下は余所の者とは関わらず、宮殿の奥深くから出てこない。
翠が座るべき位置で翡が憂鬱に過ごしている。
翠殿下は翡として街中も歩く。
貴族の子弟という格好で、女であることから解放されて楽しくやっている。
6. 
話の軸とは別に、宮廷の外では内乱、追放された王一族の復讐の狼煙。暗殺が王宮を赤く染める。
混乱した世相の差し迫る剣。
翡翠の太子はただ滅びる道を選ぶか、剣を持って戦うかの選択を迫られる。
7.
信用ならない世界で、この箱庭で得られた仲間と友人がいるということを二人は知った。
友を信じて、生きていく意志を得る。
8.
国は二つに割れた。
翡はどうするのか。
翠はどうするのか。
争いの歴史は始まったばかり、翠は翡として剣を取った。
翡はかたわらの側にいて見守ると決めた。
護国の兵を起こして、王都を目指す。
9.
例えその剣が母の胸を刺し貫くことになっても決意は代わらない。
むしろ、さっさと捕まえて首を撥ねてしまうことの方が重要。
双子の出生の秘密を知る王妃を捕らえる。
10.
親子の情も罪深きその身を罰することに感情を捨て去る翡。
母に傾倒する翠、双子の心は離れていく。
国を手に入れた翡は国王として即位する。
その側に翠の姿はない。
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Sound Horizon 失われし詩

2008/08/25 20:13
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失われし詩

(五番目の記憶)

史実という幻想では 照らせざる記憶の闇
未だ時代も場所さえも 正確には特定出来ていない
ある少女が綴ったとされている 破滅への風景
その失われし詩の断片…

(あなたにも…忘れ物は在りませんか?)

a-i.faus.tyu-li-
ai.faun.tula-it
folof.ti-hain
za-.tu-.fa-indi.elmous

ku-zel.fi-no-s
sti-l.li-.era-iz
no-.ezwi-
en.fi-ro-s.tuli-

swi-we-z.da.kralfai
nan.wi-za.feirou

en.wi-z.da.li-li-s
mei.fa-r.da.daunro-z

dei.tyu-.da.fyu-de-i
dei.tyu-.da.fyu-de-i

dei.fi-.ra.falte-s
nan.fi-z.da.flauro-

de-.re-s.turu-
via.merisa-.wiro-z

dea.ru-faus.tuli-
mea.erifeis.tu-li-

mowa.reiro-d.fi-
thia.serifain.tula-

thewa.ri-son.me.ri-zena-ro-n

lanlanlanlan
lanlanlalan
lanlanlanlan
lanlanlanlalanlan

大好きな空 大好きな町
このまま同じように明日へ続いてゆくと信じていた

乾いた口笛 空を渡る調べ
その日風に乗るのは口笛だけじゃないと知った…

それは小さな悪意の種
始まりはたった一つの嘘
貴方は誰? 私は誰?
良くも悪くも感情は育ってゆく花

渇いた大地には疑心暗鬼の雨が降り
私の国は一夜にして滅んだ
信じあう心…それは『忘レてはいけないモノ』
何故もっと早く気付かなかったのだろう…

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Sound Horizon エルの天秤

2008/08/24 19:43
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エルの天秤

買収…窃盗…誘拐…密売…

──悪魔に
魂を売り渡すかのように 金になる事なら何でもやった
問うべきは手段では無い その男にとって目的こそが全て
切実な現実 彼には金が必要だった…

傾き続けてゆく天秤 その左皿が沈み切る前に
力づくでも浮き上がらせるだけの金が 右皿には必要だった…
そして…その夜も天秤は仮面を踊らせる……

闇を纏うように 夜の静寂を探り 瞳と瞳(目と目)を見つめ合って
夢想的(Romantic)な月灯りに そっと唇重ね 息を潜めた…

慌ただしく通り過ぎる 追っ手達を遣り過ごし 手と手を取り合って
戯曲的(Dramatic)な逃避行に 酔った二つの人生(いのち) 愛に捧げた…

さよなら…(権力の走狗どもには便利なカード)
さよなら…(娘を売れば至尊への椅子は買える)

身分違いの恋 許されないと知っても ♂(お)と♀(め)は惹かれ合った
嗜虐的(Sadistic)な貴族主義を 蹴って檻を抜け出す 嗚呼それは悲劇...

運命の遊戯盤(Board)の上で 支配力を求めて 生と死は奪い合った
徹底的(Drastic)な追悼劇を 笑う事こそ人生 嗚呼むしろ喜劇…

さよなら…(コインで雇った者が裏切る世の中)
さよなら…(他人ならば不条理と責めるは惨め)

楽園への旅路 自由への船出 逃走の果てに辿りついた岸辺
船頭に扮した男が指を鳴らすと 黒衣の影が船を取り囲んだ……

「お帰りの船賃でしたらご心配なく、既に充分すぎるほど戴いておりますので、けれども彼は、ここでさよなら」

「残念だったね…」

「娘さえ無事に戻るならばそれで良い、使用人(オトコ)の方など殺(バラ)しても構わんわ」

一度も目を合わせずに伯爵はそう言った… 金貨(コイン)の詰まった袋が机叩いた…

いつも人間(ひと)は何も知らない方が幸福(幸せ)だろうに
けれど他人(ひと)を求める限り全てを知りたがる
──何故破滅へと歩み出す?

華やかな婚礼 幸せな花嫁 運命の女神はどんな脚本(シナリオ)を好むのか…
虚飾の婚礼 消えた花嫁 破滅の女神はどんな綻びも見逃さない…

嗚呼…燃えるように背中が熱い その男が伸ばした手の先には何かが刺さっていた
嗚呼…緋く染まった手を見つめながら 仮面の男は緩やかに崩れ落ちてゆく…

嗚呼…その背後には娘が立っていた 凄まじい形相で地に臥せた男を凝視していた
嗚呼…一歩後ずさり何か叫びながら 深まりゆく闇の彼方へと走り去ってゆく...

──徐々に薄れゆく意識の水底で 錆付いた鍵を掴もうと足掻き続ける
扉は目の前にある 急がなければ もうすぐ もうすぐ約束した娘の──

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今、其処にある未来(17)

2008/08/24 18:31
 そのアパートからは腐敗した臭いが漂っていた。
 否、その建物そのものがとうに腐り果ててしまったかのような印象を受ける。
 灰色に変色した壁、剥がれ落ちたモルタル、蔓が建物全体を覆い隠して、まるで四角形の緑の絨毯が敷き詰められているように見える。
 建物の周囲には雑草が生い茂り、人が住む気配は見当たらない。
 静寂の世界にエンジン音が聞こえてきて、一台の車が細い道に入ってくる。
 黄色い玉虫のような色の車体がブルルと身を震わせて止まる。それがまるで、昆虫の動きのようで、止めた瞬間が死んだようでどこかおかしかった。
 おかしい? 私の思考がおかしいのだ。
 デルフィーノは弛緩した思考をアパートに向けて、黄色い車体のドアに手をかけて少し乱暴に閉めた。指紋認証型のサインでの開閉が可能なのでキーは持ち歩いていない。
 今、彼女が立っているのは、とうに人が住まなくなった地域。汚染区域とされるバイオハザードAランクにかつては属していた場所だった。
 汚染されようが人は生き続けなければならない。この地に残された最後の住人達が遺していったものが周囲には今でも残されていた。
 国からの支援も保護も受けられない。
 棄民という独立した… 捨てられた存在となって最後の住民が死に絶えたのは三十年程前だ。
 荒れ果てた農地、かっては誰かが住んでいた家、朽ち果てながらいまだにその形を留めている家々が不自然な人間の世界を埋めるように、青々とした世界が包み込もうとしていた。
 ここはすでに滅んだ世界… 人間の領域ではないのだ。
 人が存在しない世界でウィルスがどのように生き残るのかは知らない。
 全人類の90%近くが感染し、その大半が病によって死に絶え、生存した人類はその中から生まれた新人類という種に脅えた。
 種を拡散させないために取られた対策は人類の隔離であった。発芽する可能性のある遺伝子のある者の強制隔離。先天性、後天性の可能性まで考慮して妊婦には徹底的な処理が施された。
 異能力を持った種である彼らは精神の力を物質に影響させる力を有していた。弱くとも強くとも、その差に関係なく異能種は忌避され、普通の人としての生を生きられない。
 その例外がマザー。
 唯一、人間という種を完全なまでにコントロールできる存在。そのようにマザーは創られた。造物主を守るために。
 マザーの施す治療によって人類は異能力の発芽という危険性を取り除いた。
 しかし、完全ではない。一部の異能力を発芽させてしまった子どもは人間の世界から隔離された。
 修正できなければ消去。
 苛烈な人類浄化の粛清によって、異能力に覚醒した者が成人を迎える前に不安定な種は摘み取られるシステムが出来上がっていた。
 今もなお、病の恐怖に打ち震える人類《彼ら》。偉大な先駆者が残した技術と栄光にすがって滅び行く愚かな人々。
 宇宙に出ることも適わなくなり、逆に海に逃げ込んで生態系を弄り回す最悪の種。
 人類《彼ら》などいなくなってしまえばいいのに!
 眩暈がした。知らない思考、知らない記憶。でも知っていたその感覚を。体が重く、一歩歩くのもやっとだった。
 観測したものは何なのか。
 記憶が錯乱するたびに肉体のコントロールを失う。その頻度が最近多くなっていた。
『異常なし』
 そうドクターに告げられても感覚はやってくる。
 誰かが私を見ている。囁く。記憶を蘇らせる。記憶を塗りつぶすように人を殺す。そして、また誰かが見ている。暗い扉の向こうでじっと見つめているのだ。
 いっそ記憶などすべて消してしまいたいと、そうドクターに言った事もある。肉体を弄るのが私の専門だ。君の脳はまだ壊れるには早すぎると彼は告げた。
 冷笑。
 眼鏡の向こう側の目は静かに私を見つめる。
 この男は… 私はただの患者でしかない。この男が何らかの感情的なこだわりを私に持っていることを知っていた。それが男と女の劣情的な意味合いではないことも。男の目から読み取れるのは、一つの抽象的な形象に過ぎなかった。
 蒼い目の遮断されていた感覚がやっと照準を合わせて、おぼろげながら座り込んだ位置を特定した。
 経過した時間はわずか七秒ほど。
 今、襲撃でも受けていれば間違いなく私はやられていた。無防備な姿で座り込んでいたのだ。どんな素人が来ても近距離から銃を撃てば殺されていた事だろう。
 冷や汗を背に感じる。
 アイズスキャンによって、最後にここを通ったであろう靴跡を認識する。
「一週間という所か。それに足跡?」
 そう、足跡がある部屋にまで続いていた。
 物理的に足跡がついているわけではない。アイズスキャナーが人間の生足での足跡もある事を読み取ったのだ。人間の足の指紋を遺して、つまり裸足の痕跡を正確に追うにはこの目では不十分だった。通常ならば数日程度で痕跡は追えなくなってしまうのだ。
 それが読み取れた。つまりここ一、二日で誰かが出入りしていたのだ。そのサイズからして男としては小さすぎる。子どもか女以外に考えられなかった。
 ナイフに手をかける。
 部屋の前の扉のノブを軽く握る。鍵は閉められていなかった。人の気配はしないが、確かにこの部屋に存在する事を感じ取っていた。
 瞬時に扉は開かれて、照明弾を投げ込んだ。
 ただでさえアパートに立ち込めていた腐臭が、さらに濃い気体となって解き放たれた。あまりのひどさに涙が出てくる。
 わずかなクロック差で照明弾が閃光を放つ。
 サーチした室内の奥、ダイニングルーム一つ隔てた部屋に踊りこんで、その人影の腕を掴んで壁に叩きつけるようにして捻じ伏せた。もちろん、ある程度の加減を加えて。
 閉じていた目を開ける。青い瞳だけが部屋の中をサーチモードのまま凝視していた。足元に気絶して倒れた一人の娘。
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Sound Horizon 黒の預言書

2008/08/23 17:56
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黒の預言書

幻想物語組曲…クロニクル世界
それは…歴史を辿る少女と世界の物語

詠いたい詩があるんだ…辿りたい途があるんだ…
守りたい丘があるんだ…誇りたい薔薇があるんだ…
収めたい戦いがあるんだ…聴かせたい歌があるんだ…
語りたい航海があるんだ…掲げたい右腕があるんだ…

どんな時でもボクらは諦めない 歴史の彼方 遠くて近いソラ
キミとの約束 受け継がれる想い 終わらないボクらの系譜(クロニクル)…

「<黒の神子(ルキア)>よ…私は悲しい…!
君ならば書の真理が理解できると思っていたのだがねぇ…
まぁ良い…歴史を変えられると思い上がっているのなら…
いつでも掛かって御出でなさい…」

<黒の予言書(ブラッククロニクル)>
注意:(ブラックロリコン!)と絶叫するのがよい

物心付いた時 母は既に居なかった
仄かな哀しみは 優しい子守唄…

──ボクらの道はどこまでも往けそう

生まれてくる前に 父も既に居なかった
確かな憎しみは 激しい恋心…

──何処で見つかる何を裏切る

違う星を抱いて 生まれてきたボクらも現在は
同じソラに抱かれてる それなのに…それなのに…

あの頃ボクらが夢見てた 未来へ駆ける白馬を
追い駈ける影が在ることも 識らなかったボクらを乗せて
疾って往くよ…予言された終焉へと…

それは「存在してはならない書物」
とある予言書崇拝(カルト)教団の施設より押収された
全二十四巻から成る黒い表紙の古書

そこに記されていたのは 有史以来の数多の記録
ある種の整合性を持つ 歴然とした年代記
それを史実と認めるならば
我らの肯定してきた歴史とは何なのだろうか?

書の記述は未来にまで及び 一つの相違(しゅし)に
複数の学説(は)を芽吹かせ 蟲惑の論争(はな)を咲かせる
その最大の論点は 近い未来(さき)この世界が
終焉を迎えるという<史実>…

何処までが味方で何処からが敵だ?
そこを見誤ると歴史に屠られる
各々で勝手に境界を敷いてる
白地図に刻むは争いの軌跡だ
嗚呼…狭い…ここは何て狭い世界だ…

──ジャスティス

敵は全部殺すんだ 盟友(とも)よそれで一時安心だ
(「幸セカイ? 嗚呼…シアワ世界? 死逢ワ世界? ソレデ…幸セカイ?」)
けれど味方も敵になるんだ ならば先手打って殺すんだ
(「幸セカイ? 嗚呼…シアワ世界? 死遭ワ世界? ホント…幸セカイ?」)
しかし敵は無くならないんだ だから怯えながら暮らすんだ
(「幸セカイ? 嗚呼…シアワ世界? 死逢ワ世界? ソレデ…幸セカイ?」)
されどそれを繰り返すだけだ それが幸せを掴む途だ
(「幸セカイ? 嗚呼…シアワ世界? 幸セヲ掴ム途ダ…」)

間違ってる そんな論理は 間違ってるんだ
この世界を 売ろうとしてる 奴らがいるんだ
気付くべきだ 気付いたなら 戦うべきだ
たった一羽 時風(かぜ)に向かう 白鴉のように

あの頃ボクらが夢見てた 未来へ託した地図を
描き換える影が在ることも 識らなかったボクらを超えて
疾って往こう…予言にない<ハジマリ>へと…

物心ついた時 母は既に居なかった…
病死だとボクに告げたのは
孤児であるボクを引き取り養育した組織だった
組織には似たような奴らが何人も居た
やがて組織に疑問を抱いたボクらは組織から逃亡した……

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今、其処にある未来(16)

2008/08/23 17:04
 撃鉄が落ちるより早く、横薙ぎの一閃が振り落とされる。 
 人であった肉塊が寸断されて、鈍い音を立てて血飛沫を上げて真っ二つにされた人間の胴と頭が階段を転げ落ちた。 
 音無き叫び、その刃を持つ男にはもう聴こえていなかった。聴覚はすでに感覚を失い、味覚嗅覚も衰え始めていた。
 しかし、男はまったく気にしていなかった。手にした暴力の強さに酔いしれる。
 古い肉体などとうに捨ててしまえばよかったのだ。

 片目… 抉り取られた目はそこにちゃんとついて両方の目で見えていた。
 切り落とされた腕… 腐敗しかけた脚… もうそんなものはない。新しい肉体を得て力を取り戻した。
 いや、以前よりも強力な力を得て男は笑った。

 頭痛がする。
 その度に男から記憶が抜け落ちていく。
 それはかつて男が妻子を持っていたこと。最初の裏切りの代償に妻子を生贄にしたこと。
 いくつもの裏切りの記憶が抜け落ちていく。
 ただ覚えているのは復讐だ。まだ辛うじて残っている人間らしい思考でボスを切り刻んで殺すことを考える。白い悪魔、あの女も殺す、絶対に。いたぶりつくして、体のパーツすべてを犯してやる。
 そして、悲鳴を上げて逃げる男の背中に刃を突き刺して殺す。

 円形状のドーム、むき出しになったコンクリートと鉄の螺旋階段、頂上にあるその部屋には何もない。
 エレベーターが上がってきて、ベッドに一人の男が括り付けられていた。
 何人もの白い服の男達。屈強な肉体に誰もが無表情。頂上にエレベーターが着くと、無言でベッドを押し出して、中央に固定すると、そのままエレベーターを作動させて降りて行く。
 眩しい光を感じて男は目覚めた。睡眠薬の効果が切れたのだ。
 男の寝ていたベッドのすぐ側に小さなモニターが備え付けられている。そのモニターに電源がついて一人の男の顔が映し出された。
『手術は成功した。生前の君の遺志で新しい肉体に君を移植した。気分はどうかね? 君の古い肉体は機密保持のために処分させてもらった。もう君は自由だ。好きにするといい。ぼうっとしているね。何、あと数分で思い出すよ。どれだけ君でいられるのかは保障しないが、遣り残したことがあるなら存念を晴らすといい。新しい生、おめでとう。そしてさようならだ。君と会うことはもうないだろう』
 一方的に画面の向こうの男はそう言ってモニターの電源が切られた。
 カエバスロは―自分の名前を思い出した。
 そして少し前の記憶…
 脳からの肉体移植。
 カエバスロがヴァレーノ・アイスの幹部だった頃にドクターと交わした契約はまだ有効だった。
『代金はすでに研究費としてたっぷり貰っている。足りないのは肉体だよ。屈強な肉体に強靭な精神を持った者が実験には丁度いい。ここに運び込まれてくるのは病人だけだ。活きのいい体があればいい。脳がどれほど別の体との拒絶反応に打ち勝てるのかに興味がある』
 そう言ったドクターの言葉は、本当にその程度の興味しかないという風な感じだったのを思い出す。

 今は追われる身、ドクターが契約を反故にする可能性もある。金もない。部下もいない。我が身はズタボロのポンコツ同然。腐りかけた体ではこのまま死を迎えるのみだった。追っ手を殺しても生き残る術はなかった。
 病院の連中に凶器の刃を突きつけてドクターの所に案内させる。
 意外なくらいあっさりと、ドクターは契約は保障すると告げた。
 カエバスロがやっと自分が誰であるのかを思い出すと、階段を上がってくる人影に気がついた。 
 十数人の白い服の男達。患者服だった。皆一様に暗い瞳で、どこか虚空を見るかのように宙に視線を彷徨わせていた。各々、ふらふらしながら手には武器を握っている。
 カエバスロはベッドの脇に自分の獲物が括り付けられている事に気がついた。それを手にとると、ある言葉が頭に中に浮かんで消えた。
『忘れるんだ』
 そして、カエバスロは忘れていた。ここがどこで、なぜここにいて、何をしようとしているのか。
 目の前にいる男達も様子が一変していた。怒りに満ちた様子で手に持った武器で殺し合いを始めようとしていた。
 カエバスロにもただ、強い殺意が湧き上がってきて、その原始的な凶器を振り上げていた。

 凶行の後に残ったのは生存者一人。
 男の殺しの腕は鈍っていない。人工筋肉の同調リンクは完璧だった。ただ、一人殺す度に何かを忘れていた。
 転がる死体、血塗れ滑る階段を一歩ずつ降りて行く。
 手にした凶器の刃が鉄を打ちつけて、金属音が鳴り響く。
 もう血は乾きかけていた。
 ドームの最下層の入り口に辿り着いて男は扉を乱暴に開け放つ。
 強い太陽の日差しが目を焼いた。
 直に慣れると、荒野の中にぽつんとある廃屋を振り返る。
 すでに百年ほど前に投棄されたファクトリーの天文観測所。
 そして男は歩き始めた。目指すのは街。死など彼は恐れていなかった。
 逆らう者は… 皆殺しにしてやる。静かな狂気が彼を動かしていた。
 砂嵐がドームの姿を包んで、黄色いノイズとなって消えてしまう。あたかも、すでに消えてしまったかのように。男の姿も飲み込まれていった。
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Sound Horizon そこに在る風景

2008/08/22 18:23
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そこに在る風景

──幻想とは詩を綴るような遊戯 タナトスは誰も逃がさない──

そこに在る風景…
闇へと続く道 虫の音 裸足の冒険者
そこに在る風景…
ランプの薄灯り 軋む廊下 真夜中の少女
そこに在る風景…
屋根裏 埃まみれの小部屋 古びた玩具箱
そこに在る風景…
四色の闇 転がり落ちた玩具 残酷な遊戯

そこに在る風景…

そこに在る風景…
偽りの玩具 壊れたマリオネット 月夜のナイフ
そこに在る風景…
後悔の玩具 銀色の馬車 吹雪のエレジ−
そこに在る風景…
願いの玩具 輪廻の砂時計 星空のポエム
そこに在る風景…
孤独の玩具 珊瑚の城 海底のプリズン

(Lu Lu Lu Lu Lu Li Lu Lu Li Lu La Lu Lu
Lu Lu Lu Lu Lu Li Lu Lu Li Lu La Lu)
(Lu Lu Lu Lu Lu Li Lu Lu Li Lu La Lu Lu
Lu Lu Lu Lu Lu Li Lu Lu Li Lu La Lu)

追憶は草原を渡る風の色 近過ぎて 遠過ぎて 届かない風景
繰返しタナトスに抱かれる夢 眠れない少女が見る風景…

(Lu Lu Lu Lu Lu Li Lu Lu Li Lu La Lu Lu
Lu Lu Lu Lu Lu Li Lu Lu Li Lu La Lu)
(Lu Lu Lu Lu Lu Li Lu Lu Li Lu La Lu Lu
Lu Lu Lu Lu Lu Li Lu Lu Li Lu La Lu)

そこに在る風景…

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今、其処にある未来(15)

2008/08/21 20:58
 白い太陽の日差し、色素の薄い瞳には尚更、その光が眩しく感じる。
 ポケットに手を突っ込むと、指が細い紐と眼帯に触れた。
 屋敷の柱に寄りかかりながら、手袋を外してその手触りを楽しむ。上に翳し片目を瞑って太陽から蒼い瞳を隠すようにして見る。
 手に優しい感触の素材でできた黒い眼帯はチェストからの贈り物だった。お返しに私が上げた物と言えば、旧式で二世紀ほど前に流行ったデザインの安っぽい銃だった。もっとも、コレクターの間では相当に高い値段で取引されているらしい。
 私がその銃を手に入れたのは、ファミリーを裏切った男を殺した時だった。
 その銃は男が逃げ込んだアジトの一番奥の部屋、古びたベッドのある今にも壊れそうな物入れの中から取り出された。硬い音、長い間使われていなかったその銃の撃鉄が落ちる前に私は男の頭を撃ち抜いていた。
 足元に脳漿の欠片と顔の肉と骨が飛び散って、男の手に握られたままの銃に手をかけて手に取る。
 旧式な銃の手の造型に合わせたシンプルな造り。六発しか玉の入らない恐ろしく前時代の代物だった。銃創に弾は込められていなかった。
 その銃を何となく持ち帰り、隠れ家の金庫に放り込んでその後は忘れてしまった。ふと思い出したのはチェストの誕生日が近いことと、僕に銃は必要無いと言った彼の言葉を思い出したからだ。

 彼が銃を使ったのを見たことがない。仕事でも何か武器を持っているような素振りを見せたことがない。常に無手なのだ。
 相棒である以上、彼の能力を聞いては知っている。だが、実際にその能力を見たことがない。その現場の痕なら見たことはある。
 ―あれは、私がチェストの下について最初の月だった。
 私は思い上がっていた。自分の能力と力に。人知を超えた腕力、人を殺すための最高の技術、私だけが使いこなすことができる最凶の銃《相棒》。
 彼は「僕流の仕事の仕方を見せる。生きていたかったら邪魔をせずじっとしていることだお嬢さん」と言った。
 プライドが傷ついた。へまでもしたら私が殺してやる。その思考は数分後に吹っ飛んでいた。
 合図の後に部屋に踏み込むと、そこは凄惨な場面。
 それは切り刻まれた死骸の山。芸術的なまでに肉片は人間の形をしたまま倒れているもの。飛び散った血で描かれている形象。凶器は鋭利な刃物と呼ぶには恐ろしいまでの断面、まるで、斬った箇所を繋げれば元のパーツに収まるのではないかと思うほどの作品… 人間の成しえる業ではなかった。
 紅い魔人―血の海の中で、血の一滴も浴びずに生還し殺戮し尽くした男の名前はチェスト・ヴァレンタイン。

「最高だな。自殺でもするのかい?」
 チェストは冗談めいた顔でしげしげと手に取った銃を見ながら、子どものように銃を抜いてパーンと言いながら、車の外を通る人に空砲で撃つ素振りをする。
「誕生日プレゼント」
「この玩具が?」
 彼は眉に皺を寄せる。明らかに不服なのだ。金の方が嬉しいのだろう。
「玩具でも箔がつく」
「ガキがお遊びで持つチャカの方がましだな。何故、君が使わない。小回りの利く銃を使え」
「撃ちにくい」
「撃ち殺しがいが無いと素直に言え。この殺人狂が」
 車のブレーキを思い切り踏んでやる。
「馬鹿! ちゃんと前を見て運転しろ! 命が縮むだろう」
 私の車の運転の練習にチェストは付き合っている。地下の元は駐車場だった空間は今では私の場所となっていた。
 街のチンピラのたむろする場所で、車が珍しいのか何人も見物にやってくる。もうすでに顔馴染みで知らない者はいない。逆に知らない者がいればすぐに知ることができた。ここはヴァレーノ・アイスの幹部チェストのシマとして認識されていた。
「ピーキーなチューンだな。馬力のでかいじゃじゃ馬だ。君にそっくりだ」
 そう言って、用があると彼は去っていった。リボルバーを持って。それなりに気に入ったらしい。
 軽くエンジンを吹かしながら、地下の闇の中で考えに沈む。
『家族になろう』
 ボスの言葉がよぎる。
 答えは保留にしてある。 
 今度の仕事が終わるまでのわずかな猶予。
 それが終われば、もうデルフィーノは殺しをしなくていい。
 殺さなくても私は平気でいられるの? 応えなどない無い闇への問いかけに、エンジン音だけが鳴り響いていた。
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Sound Horizon 薔薇の騎士団

2008/08/21 19:35
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薔薇の騎士団

第九巻 468ページ...

アヴァロン朝 ブリタニア王国 時代を象徴する二人の女傑(ヒロイン)

<地上の月輝(つき)>と謳われた詩人 ルーナ・バラッド
苛酷な旅の果てに眼病を患い 光を失ってなお歌い続け
その詩を通して聴く者の心の闇に 希望の光を灯し続けた女性

<至上の薔薇>と謳われた女王 ローザ・ギネ・アヴァロン
暴君として知られた女王の姪であり 王位継承権第一位の姫であった
先王の治世下 その圧政に苦しむ民衆を解放した女性

「<権力者>(ばら)によって<思想、言論の自由>(うた)が弾圧されるような時代は、
もう終わりにしましょう...弱い自分に負けない為にも、
私は大切な人の名前を背負った...嗚呼...エンディミオ...
もうどんな嵐が訪れようとも、私は歌い続けられる...」

「皆にもう一度誇りを取り戻して欲しい!
祖国を愛する心を、この国は皆が愛した故郷に戻れるだろうか?
冬薔薇は枯れ、今遅い春が訪れた...
私は此処に誓う!光の女神(ブリジット)に祝福される薔薇になると!」

プリタニア暦627年
時の...フランドル国王 キルデベルト六世
国号を神聖フランドル帝国と改め帝政を敷き
聖キルデベルト六世として初代皇帝に即位
<聖戦>と称し ブリタニアへの侵略を開始...

<薔薇の騎士団>(ナイツ・オブ・ザ・ローズ)

それは...長かった苦境の時代を引き摺っていた人々が新しい薔薇の下
一つに纏まってゆく情景を綴った ルーナ・バラッドの詩の一節...

誇り高き炎を纏い祖国(くに)を護る為に剣を取った
胸に気高き女王(クイーン)の薔薇を抱いた同胞(とも)を
称えよ我らの<薔薇の騎士団>(ナイツ・オブ・ザ・ローズ)を

嗚呼...光の女神(ブリジット)の祝福が在らんことを...
祈りの歌に見送られ 勇敢なブリタニアの息子達は戦場へと向かった...

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思考錯誤の部屋@

2008/08/20 20:39
 頭の中の設定をさらけ出すシリーズその@として、とりあえずキャラクターの原案を出していくことにする。

1.時代は大正である。

2.女の子より大人な女、でも時には少女のように、時には大人の女の顔もできる女。

3.年齢は二十代半ばか後半。

4.生まれは高貴で育ちは貧乏。公家の血筋にでもしておこう。金があれば華族である。

5.貧乏のせいで金持ちアレルギーだが、金はほしい。貧乏が染み付いているが、贅沢は敵だと信じている。 

6.生きるために雑誌社の編集長として活動している。それも色物雑誌で、売れる内容なら何でも載せる如何わしい編集社である。

7.雑誌社の編集長の顔は男としてのペンネームを使用している。雑誌社にいる一人の女秘書がその正体である。社員もその正体をよく知らない。誰もが秘書からの指示で動いている。

8.そんな彼女に頭上から降って沸いた『婚約』の一文字。ある財閥の御曹司との縁談。金を取るか仕事を取るか? 究極の選択が待ち受ける。

9.そして雑誌社に新人記者として一人の男が面談に。実は婚約者。なれない小説家志望の青年、編集者の記者になって、親から一人立ちしようとあちこちの編集者を訪ねるがほぼ落ちてしまう(財閥化根回し)。

10.与えられる猶予。この男を叩き締め上げて追い出すか、鍛え上げられるかで女の生涯が決まる。そんなわけで採用。男が諦めないと『婚約』は露と消える。この時点で女にはまだ迷いがある。

11.金は欲しいが結婚するには如何わしい雑誌社は畳まねばならない。だが、仕事は楽しい。ネタが続く限り金は入ってくる。実際、婚約者は必要ではない。
 しかし、将来の不安、金が欲しい金が欲しい金が欲しい。何とか押さえ込む。
 そんなわけで、女は男を引っ張りまわした挙句、散々馬鹿にする。追い出しにかかる。ところが男は踏まれても踏まれてもめげないのだ。
 次第に女は編集長ではなく女として意識するようになる。男を本気で鍛え上げて、女の望む道に引っ張り込もうとする。

12.ところが、男は結構もてるのだ。周囲にいる女も、自分よりも容姿や男を惹きつける才能を持っている。
 女には何もない。仕事するくらいしか能がない。女は自分の限界を知っている。
 そして、他の女が男を掻っ攫って行く可能性が非常に高い。男が他の女に関心を持っていることを知っているのだ。嫉妬よりも惨めさが女を叩きのめす。
 そして他の女と結婚することにでもなれば『婚約』もすっ飛ぶのだ。会ったこともない婚約者に男はまったく興味がない。本当に金を取るか仕事を取るかの決断をしなければならない。

13.焦る女。妨害工作は仕事の失敗という手痛いしっぺ返し。金策につまり雑誌社は崩壊。
 女には残されたものがない。男を引き止めるための最後の手段。
 男は何も知らないまま首を宣告される。
 男は夢を失い、父親との約束を果たすことにする。
 「結婚する」
 そして再会する二人…。
 愛のない結婚に、男を愛する女が飛び込んでくる。
 連れ去られる男。女の中で生来の負けん気が復活する。一人の女として男を取りに行く。

14.見えないな結末(笑)


 準キャラクターとしての設定をしてみた。名前はまだない。女である。  
 名前の募集、設定の突っ込み、後ほしいものなどの要望はコメント欄にて受け付けます。
 
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Sound Horizon 沈んだ歌姫

2008/08/20 19:42
サンホラの世界に戻る


沈んだ歌姫

第十二巻 741ページ…
二人の歌姫 沈むのはいずれか…

紅の歌姫と称されし フィレンツァ領主 フィレンツァ公爵家の令嬢
ロベリア・マリア・デッラ・フィレンツァの手番(Turn)

遊戲盤(ばん)の上を駒が進む…
<聖都フィレンツァ及び南都ナポールタ → 赤の歌姫の後援都市>(Firenza Naporta Patrono de ロベリア)
歌え!紅の歌姫 目指す舞台は
優雅にして華美なる(Elegante e Sfarzoso)麗しの王都ロマーナ

蒼の歌姫と称されし ミラーナ領主 ビスコンティエ公爵家の令嬢
ジュリエッタ・シモーネ・デル・ビスコンティエの手番(Turn)

代わる代わる駒は進み…
<北都ミラーナ及び水都ヴァナラ → 蒼の歌姫の後援都市>(Milana Venera Patrono de ジュリエッタ)
歌え!蒼の歌姫 目指す舞台は
優雅にして華美なる(Elegante e Sfarzoso)憧れの王都ロマーナ

紅く燃え上がる情熱の歌声と華やかな容姿(Figura)
蒼く湧き出づる清廉の歌声と穏やかな微笑(Fuori fuso)

私こそが<最高の歌姫>(Regina)

諸侯を巻き込んで 宮廷に蠢く影は 権謀の黒き獣(Bestia) 争いの宴(Festa)は続く…

田舎貴族の娘(ジュリエッタ)が望むには不遜な 至尊の寶冠(Tiara)
色惚の年・シ(ロベリア)が望むには不遜な 至尊の寶冠(Tiara)

頭上に戴くのは紅の歌姫(ロベリア)こそが相応しい…
頭上に戴くのは蒼の歌姫(ジュリエッタ)こそが相応しい…

…「王妃陛下万歳!(!Viva! Evviva!)」

(Ves, Viros, Wes, Lilis...)
(Eros, Vires, Eris, Viros...)
(Feno, Firis, Feris, Firos...)

「見なさいロベリア…今やナポールタの利がお前の手に落ちた。
後はビスコンティエの小娘さえ退けば…晴れてお前が王妃陛下だ」
「あんな田舎娘にこの私が負けるはずありませんわ」
「おお、そうだとも。だが憂いは全て絶つに越したことはない」

時は…イタニア暦312年
国王モンテフェルトラーノ四世 突然の崩御
若き王太子アレッサンドロ
アレッサンドロ一世として即位
イタニア<最高の歌姫>を
王妃として迎えるという勅令を発布
野心を抱いた地方領主/門閥貴族
各々に歌姫を立て王都を目指し進撃…

「まぁ、お父様ったら。ウフフ…」
「下賎な歌姫など身分の卑しい売女も同じ。
まして逆賊の娘など売女以下の面汚し。」
「可愛いロベリア…最高の歌姫はお前だよ…」
「あら。ウフフ…。頼りにしてますわ、お父様」

駈ける駆ける獣(Bestia)…
高値で売れるなら娘でも売れ
売値は望む得る限り高く
猛る猛る獣(Bestia)…
敵を売れ 味方を売れ
他人の娘など底値で売りつけてやれ
咆える吼える獣(Bestia)…
弑逆を謀った逆賊として
デル・ビスコンティエ一門処刑
屠る屠る獣(Bestia)…
逃亡を図った国賊として
デル・ビスコンティエ令嬢を処断

「ジュリエッタ…お前は最高の歌姫、我が一門の希望だ。
私の力が及ばないばかりに…すまなかったね。
せめてお前だけでも逃げなさい」

「騙し騙され…殺し殺され…よく飽きもせぬものだ…
全ては遊戯(Game)に過ぎぬ…予を生み堕とした…
この世界に復讐する為のな…!」

逃げる乙女と 追い駆ける獣(Bestia)
紅糸で手繰る 操り人形(Marionetta)
繰り返される 歌劇(Lirica) 悲劇(Tragedia)
紅糸で手繰る 操り人形(Marionetta)

牙を剥いた獣(Bestia) 追い詰められた断崖
歌を奪われた歌姫 世界までも奪われ…

「ロベリア!ロベリア!」
「ロベリア王妃陛下万歳!(Viva! Roberia Evviva!)」

「──お父様!」

蒼い空 碧い海 飛び去りぬ白鴉 沈み逝く歌姫

歌姫ジュリエッタの沒後…王妃ロベリア在位僅か三年にして
寵妃ビアトリジェ宰相ガレアッツォらの共謀により 歴史の闇に沈む…

君よ驕ることなかれ 我等
歴史という大海に漂う小舟に過ぎぬ
盛者必衰 沈マヌ者ハナシ…


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Sound Horizon 輪廻の砂時計

2008/08/19 23:30
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輪廻の砂時計

―やがて訪れる朝陽 銀色の馬車が導くひとつの終焉―

LaLaLaLaLaLaLaLaLaLa…
LaLaLaLaLaLaLaLaLaLa…

星屑を集めるように 朽ちてゆく世界で
零れ落ちるまでの詩を綴る
美しく咲いてる花も 過ぎ去れば砂になり
静かなる終りの場所へ 堕ちる

煌く星空を詰めた 銀色の砂時計

苦痛に身を委ねる 輪廻を信じて
微笑んだままで逝く…「私は生きてた」

最期の我侭が 通るならお願い
真夜中に逝くのは 寂しいから嫌だ
出来れば始まりの 朝の光の中で
新しい訪れの 息吹感じながら
笑いながら 歌いながら あなたの腕の中・・・

蒼く揺らめいて燃える 最期の焔は
あなたの腕で消える…「私は愛した」
苦痛に身を委ねる 輪廻を信じて
微笑んだままで逝く…「私は生きてた」

LaLaLaLaLaLaLaLaLaLa…
「私は愛した」
LaLaLaLaLaLaLaLaLaLa…
「私は生きてた」
LaLaLaLaLaLaLaLaLaLa…
「私は愛した」
LaLaLaLaLaLaLaLaLaLa…
「私は生きてた」
LaLaLaLaLaLaLaLaLaLa…

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今、其処にある未来(14)

2008/08/19 20:02
 『白百合の庭』の温室の隣にその館があった。
 ヴァレーノ・アイスの所有する館。
 大理石の床、彫刻の施された天井、まるで中世ルネサンスの建造物を思わせる造り、壁には失われた名画が立ち並んでいる。
 そのいくつかは完全なレプリカで、ホログラムによって描かれた当時の姿で再現されていた。存在することそのものが幻影。
 屋敷の扉の前に立つと、扉のノブに触れる前に一人の男が出迎えた。
 黒い執事の服に身を包んだ痩せた男。この屋敷を管理し、使用人達を束ねる執事。
 名前はチェッカーマン。本名ではないことは明白、だが、この世界で本名なんてものは何の役にも立たない。マザー都市や政府の管理下に入らない限りは飾りにもならないのだ。
 この屋敷の使用人はチェッカーマンを除いては全てが女だった。
 旧世紀のメイドのお仕着せを着たゴシックな飾りに身を包む女達、この屋敷の雰囲気と馴染んで、ここを訪れた者はまるでタイムスリップしたかのような印象を抱く。
 彼女達は表の世界を知らない。生まれた時から、死ぬ時までこの屋敷から出ることはない。そのように教育され、その通りに生きていく主体性のないクローン達。自由に思考することなど彼女達には必要ではなかった。必要な時に男が求めればセックスに応じるマシン。『白百合の館』は金持ちが創り上げた快楽の楽園だった。
「お父様は?」
 と、私はチェッカーマンに尋ねる。
「はい、旦那様は竜の間でお待ちになっておられます」
 恭しくチェッカーマンが頭を垂れて、大きな扉の前で立ち止まったまま姿勢を崩さない。ここから先は、主の許しがなければ使用人が立ち入ることを許されないのだ。
 扉に手を触れて押し開ける。赤い絨毯がどこまでも続いて、段差になった上の豪奢な机の下まで続いている。調度品、家具も今ではどんな好事家でさえも手に入れることが困難で貴重なものばかりだった。
 一人の男が出迎えるようにして窓の隣に立った。彼こそヴァレーの・アイス・ファミリーのボス、ヴァレーノ・アイス本人だった。
「デルフィーノ」
 と、少し感動的なまでに大げさに両腕を上げて出迎えると、親愛の抱擁を交わす。
「パパ会いたかった」
「嘘をつけ」
「うん」
 とても近い所で彼の声と匂いがする。ダディの好きな葉巻の香り。
 決して表では見せぬ顔で目を細く笑う彼が、マフィアのボスだとは誰もわからないだろう。立っている場所がこのような場所ではない限り。でもそれはありえない。彼が動く時は完全にマフィアのボスらしい貫禄を持った男に生まれ変わる。
 二人きりの時はパパと呼ぶ。そう呼べと彼が言うからだ。
 ファミリーのメンバーがいる時はボス、より近しい側近の前ではダディ、この屋敷ではお父様。
「大事なパーティがあるのでしょう? 忙しいのでは?」
 私は注意深くヴァレーノの顔を見ながら尋ねる。
 ボス本人が個人を指定して呼び出すことがどんな意味かを理解できない者はいない。
「まあ座れ」
 用意された椅子は二つ、ヴァレーノが合図すると、メイド二人が銀の盆と食器、紅茶を持って入ってくると、二人の席を隔てる小さなテーブルの上にそれを置いて、一礼して立ち去った。
 彼女らが立ち去るまでお互い口を閉じたまま黙っている。
「デルフィーノ、俺の娘になれ」
 最初に口を開いたのはヴァレーノからだった。砂糖入れから角砂糖を摘もうとした指先が震えた。冷静に一つ、砂糖を紅茶に落としてゆっくり掻き混ぜて心を落ち着かせる。
「今でも私はダディの娘じゃないの」
「違う、本当の娘になるんだ。アイスの名前をお前が継ぐんだ」
「私にファミリーネームを…」
 突拍子もない申し出だった。血の繋がりはなく、確かな権力の足がかりも持っていない私の立場はとても危うい。
 組織の中で闇の世界を生きてきた者にとって眩しすぎる世界への誘い。それは同時に守る側になるということだった。守るために誰かを殺す。その尖兵がこの私、デルフィーノという暗殺者の役割だった。
 それが何故、今更、この私なのか?
 もはや、ヴァレーノ・アイスはただのマフィア集団ではない。多くの権力と金と人を支配する。昔風に言えば領主のようなもので、このファミリーを上から支配する者はいない。実質的にはまさに王と呼んでも差支えがない。それがヴァレーノという男の肩書きだった。
「ダディ、とても光栄だけど。それは受け入れられない。私は器じゃない」
「俺が望むんだ。お前の幸せでもあるんだ」
「そんな」
「我侭さ、長くこの世界に浸りすぎていたせいか、この歳になって本当の家族がいない」
「皆、家族じゃないの」
「そうさ、みんな家族だ。だが、俺の意思を継がせられる後継者がいない。シンボルが必要なんだよ」

*書きかけ
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